Alibaba Cloud の DaaS #1 概要編

Alibaba Cloud が提供するDaaS “Alibaba Cloud Desktop” について記事を書いていきます。

最近、Microsoft Azure のWindows Virtual Desktop にかまけてAlibaba Cloud の情報収集が不十分だったようです。 公式サイトのDocument Center を眺めていたら”Cloud Desktop” という項目を発見します。 

中身についてはこれから把握するところですがある程度使い物になるDaaSである場合、日本企業による中国本土でのDaaS 利用の最有力候補になるかもしれません。 Microsoft Azure のWindows Virtual Desktop の中国利用は来年予定で今現在は未提供。 AWS Workspaces は提供済です。 Azure もAWS も中国本土のそれとグローバルのサービスは別物で日本から簡単に利用出来ないこともあり。

とりあえず以下がどうなっているかドキュメントを読み込んでいきます。

  1. コスト
  2. Windows クライアントOSの利用可否
  3. 画面転送のプロトコル
  4. 利用できるリージョン
  5. Why Alibaba Cloud Desktop

1. Docuement Center にある情報

まず、Document Center のCloud Desktop のURLはこちらです。 以下の目次構成となっていますので順番にポイントをまとめていきます。

  • Introduction
  • Pricing
  • User Guide
  • FAQ

なおドキュメントは英語のみです。 Alibaba Cloud も日本サイト契約ではドキュメントもほとんど日本語化されていました。 国際サイトは提供プロダクトも多いこともあり基本英語(かつ中国語まじりつつ)です。  個人的には言語よりもボリュームが重要です。 情報はたくさんある方がよいです。(今回の Alibaba Cloud Desktop はかなり少ない方ですが。。)

1.1. Intoroduction

1.1.1. Features

Alibaba Cloud Desktop is a cloud-based, highly-efficient, and cost-effective virtual desktop service. It incorporates the cloud desktop and graphics workstation functions, helping you quickly build your desktop office system. It provides the following features:

冒頭上記の説明文があります。 Alibaba Cloud Desktop はクラウドベースであること、効率的で、コストパフォーマンスも優れる仮想デスクトップサービスとのこと。 画像処理用のワークステーションの機能を備えるとも言及されています。GPU付きの仮想マシンですね。 快適な仮想デスクトップの実現には必須の技術ともなってきています。快適性だけではなくCPU処理のオフロードというメリットもあります。

Highly-efficient, cost-effective desktop management

  • Minute-level delivery
  • Flexible cluster scaling
  • Flexible instance specification changes

効率性とコストパフォーマンスについてですが、様々な展開方式を備え、仮想デスクトップのクラスタを柔軟に拡張・縮小でき、時には仮想デスクトップのCPUやメモリの仕様を変更できる、と。  

一見、既存のDaaS も同じように思えますが違いはあります。 既存のDaaS も大きく2種類に分けられます。 1つ目はパブリッククラウドを使うDaaSです。 Microsoft Azure のWindows Virtual Desktop やHorizon Cloud on Azure(WVD) 、Citrix Cloud on Azure (WVD)です。 このタイプはAlibaba Cloud Desktop と同じ特徴を備えています。 2つ目はユーザリソースを買い切るタイプのDaaS です。 表面上はDaaS と言いつつ内部ではそのユーザ専用の物理リソースを都度準備します。 その結果として柔軟性に欠けます。

この時点で頭に浮かぶのはAlibaba Cloud では クライアント向けのWindows OS 、Windows 10 、が利用できるのか? という疑問です。 AWS Workspaces のようにWindows Server にDesktop Experience の機能を有効化したタイプなのか気になります。 とりあえずドキュメントを読み進めます。

Data security

  • Flexible configuration of cluster policies. For example, watermark, clipboard, and file copy policies
  • Eliminating residual data from clients to protect IP addresses

データセキュリティについてです。クリップボードやファイルコピーの設定ポリシーに加えてwatermark、いわゆる電子透かしにも対応するようです。 Windows Virtual Desktop やHorizon Cloud にはない機能ですね(Citrix Cloud は機能あり)

“Eliminating residual data from clients to protect IP addresses” の機能はイメージがわきません。 IPアドレスを保護する機能で、クライアントから残ったデータを取り除くと。 あまり他のDaaS ソリューションで見ない機能なのか、読み進めたあとに詳細な情報が出てくるのを待つことにします。

Flexible purchasing

  • Flexible billing (pay-as-you-go and subscription)
    • The [No Fees for Stopped Instances (VPC-Connected)] feature is supported for pay-as-you-go instances.
  • A wide range of instance families with CPU and GPU capabilities

リソースの購入は従量課金でもサブスクリプションでも可能とのこと。また”No Fees for Stopped Instances (VPC-Connected)] feature”という停止しているか仮想マシンは課金しないという機能が使えるとのこと。 これはAlibaba Cloud Desktop 向けの機能ということではなく従来からECS を従量課金で利用する場合の考え方です。 例えば昼夜2交代や3交代で1台の仮想マシンを使いまわす場合はサブスクリプションが間違いなくコスト面で有利です。 平日8時間しか使わない、また、従業員全員が必ずしも毎日使わないというケースでは従量課金がコスト面で優れることもあります。まあ、従量課金ではいざ使いたい時に”売り切れ”で使えないリスクと向き合う必要はありますが。 

あとは豊富なECS インスタンスファミリーからスペックを選べるよ、と。

Fast access

  • Connection over the Internet, internal networks, and private lines
  • Supporting Windows and macOS
  • Management of desktops from different branches distributed across regions

”Fast” アクセスについて。 高速アクセスかと思いましたがリストされた説明みるとFast Food 的なニュアンスで”すぐつながる、簡単につなげられる”ですかな。

インターネット / LAN / プライベート接続からも接続できること、OSはWindowsだけではなくmacOSにも対応し、複数のリージョンにまたがって展開された仮想デスクトップを管理できるとのことです。

USB peripherals

Secure, controllable cluster policies, allowing connections to multiple USB peripherals, such as USB drives and drawing tablets

USBの周辺機器の対応についてもポリシーとして制御できるとのこと。USBドライブやペンタブレットを許可するなど。

1.1.2. Scenarios

Typical scenarios

  • Remote work
    • Using Microsoft Office applications
    • Work in the office or work on the go
  • Multi-branch collaboration
    • Management of desktops from different branches distributed across regions
    • Collaborative working among different branches
  • Image and video editing
    • Using professional graphics software. For example, Photoshop.
    • Using professional video editing software. For example, Houdini.
    • Using USB drawing tablets. For example, Wacom drawing tablets.
  • Industrial design and modeling
    • Using professional industrial design and modeling software. For example, 3ds MAX and SolidWorks.

4つの利用シーンの説明があります。  そのうち2つはGPU の利用を前提としたソリューションです。 Alibaba Cloud Desktop としてアピールしたい思いが見えてきます。  また複数のリージョンでの利用は中国にビジネス展開する日本企業では需要が多い利用シーンです。 中国拠点従事者や中国出張時に日本にあるシステムを快適に利用したい、中国企業にアウトソースしている設計や開発業務について環境やデータを管理したい、など。

  • リモートワーク
  • 複数のリージョン
  • 拠点からの利用
  • 動画像の編集、3D CAD

1.1.3. Account

You can use the Alibaba Cloud RAM service to manage permissions on Cloud Desktop. Different user accounts are assigned different permissions:

  • Common user: a RAM user with which you can connect to, start, or stop instances that you have permissions on.
  • Administrator: an Alibaba Cloud account or a RAM user with administrator permissions. You can use it to perform the following operations:

Alibaba Cloud Desktop の管理の中でRAMを利用し2つの異なる権限をアサインできることが説明されています。 ”Common user”はエンドユーザが自分自身でアサインされた仮想デスクトップの起動や停止が出来る権限、”Administrator” はCloud Desktop の管理者向けですね。

1.2. Pricing

Alibaba Cloud Desktop は課金は2つの要素で構成されます。

1.2.1. Clusters の課金の考え方

Clusters はAlibaba Cloud Desktop のクラスタの課金です。 1つのクラスタは100 台のECS インスタンスが上限とのこと。 従って1,000台の仮想デスクトップの展開時は10個のClusters が必要となります。

また課金については以下の記載があります。

  • Pay-as-you-go: CNY 0.71 per hour, CNY 519 per month, and CNY 6,220 per year

1時間当たり CNY 0.71 。CNYは中国人民元です。 2020/7/11 のレートは1 中国人民元は15.27円 /です。 1か月(730時間で換算)すると7,915 円です。 100台の仮想デスクトップで割ると79円/仮想デスクトップ ですので低コストです。 Azure のWindows Virtual Desktop は無償ということもありますが重要なのはコストパフォーマンスです。 同じ機能や同じ品質なら安価な方が良いですが、コスト相応の機能や品質となるとあとは要件見合いになってきます。

以下、目安となる早見表を作ってみました。 コストは従量課金なので時間と為替レートで変動しますので参考情報として見ていただければと。

Clusters の数量展開可能なデスクトップ数月間コスト
(円)
11007,915
330023,745
550039,575
101,00079,150
202,000158,300

1.2.2. Instances の課金の考え方

Instances はECS のインスタンスと基本的に同じ課金の考え方になります。 Alibaba Cloud Desktop の利用にあたり追加の課金は特にないとのこと。 従量課金でも月額ないし年額のサブスクリプションで要件に応じて柔軟に対応できます。

1.3. User Guide

1.3.1. Cluster Management

このセクションでは Cluster の作成の手順が説明されています。  1. Preparations、2. Create a cluster、3. Manage policies、4. Release a cluster の4つについてちょっと紹介されているだけです。情報量は少ないです。 以下、スクリーンショット。

このページでは対応しているリージョンについての情報もあります。 中国本土のみのようです。Alibaba Cloud のリージョンの詳細はこちら。 FAQでは中国本土8リージョン、中国外3リージョンとの記載もあり。どちらにせよ東京リージョンは今現在は未対応の模様。

Currently, you can choose Beijing, Zhangjiakou, Hohhot, Hangzhou, Shanghai, or Shenzhen.

1.3.2. Instance Management

このセクションではインスタンス(仮想デスクトップの仮想マシン)の管理について以下の項目で説明があります。

  1. Permission description
    • RAM による権限の制御について
  2. Create an instance
    • インスタンスの作成について
  3. Allocate an instance to a user
    • インスタンスへのユーザの割り当て
    • 割り当てはRAMユーザを割り当てる
  4. Start, connect to, or stop an instance
    • インスタンスの起動
    • インスタンスの停止
    • インスタンスへの接続
      • “Aliyun GWS App” というクライアントソフトウェアをWindows または macOS にインストール
      • “Citrix Workspace App”のインストールも必要
      • “Citrix Workspace App”を経由して仮想デスクトップに接続
  5. Use USB peripherals
    • USB周辺機器に関するポリシー設定について
  6. Delete an instance
    • インスタンスの削除の仕方について

このページもそれほど情報量は多くないのですが、思いもがけず”Citrix Workspace” について言及されます。 Alibaba Cloud Desktop の利用には必須コンポーネントとのこと。 まあ”Citrix Workspace”を使うからと言って画面転送プロトコルがICA / HDX であったり、DaaS の基盤がCitrix とは限らないのですが。しかもドキュメントには詳細な情報の記載がなくこれ以上書けることもなく。

1.3.3. Image Management

ここではAlibaba Cloud Desktop で利用されるイメージの管理について説明されます。 イメージ=仮想デスクトップのOSです。 ここでOSは Windows Server 2016 との記載が見つかります。 クライアントOSとなるWindows 10 については特に記載は見つかりません。 Custom image に関する説明もありますが基本はWindows Server 2016 (Alibaba Cloud Desktop に必要なソフトウェアが組み込み済)のSysmtem image をカスタマイズすることになります。 別に作ったWindows 10 の持ち込みなどは説明ありません(この話は機能面よりもMicrosoft のライセンスの話になりますが)。

1.4. FAQ

FAQ です。 私は他のプロダクトや他のクラウドもFAQのページを読むのは好きです。 色々な発見もありますし、目的志向なので読みやすかったり。 参考になるQuestions を何個か紹介します。

Which regions does Cloud Desktop support? (どのリージョンで使えるか?)

中国本土は8リージョン、中国買いは3リージョン(Singapore, Germany (Frankfurt), and India (Mumbai))がその答え。 東京リージョンは未対応。

他のリージョンももうすぐ対応するよとは書いてあります。

How many clusters can I create? How many instances can I create in a cluster? (Clusters は何個まで作れるの?)

欲しいだけ作れるよとの回答。本当に制限が無いのかは気になりますがドキュメント全体でも仕様一覧、制限一覧などの情報もなく、まあ100位までは作れるのだと思います。

In addition to Windows Server 2016 and Windows Server 2019, does Cloud Desktop support Linux, Windows 7, Windows 10, Windows 2008, and Windows 2012? (仮想デスクトップにLinuxやWindows 7、Windows 10、Windows Server 2008 /2012 は使えないか?)

答えとしてLinuxは未対応。Win7やWin10はデスクトップOSだから未対応、でもWindows Server 2016 をWindows 10 の代わりに使っている成功事例も沢山あるよ、Server の2008も2012もサポート切れだからダメよ、とのこと。

In addition to Windows and macOS, does Cloud Desktop support thin clients, iOS, Linux, and Android? (クライアントはWindowsとmacOS以外は使えないの?)

日本では聞いたことないThin Clients が対応しているとのこと。今後も沢山のThin Clients が対応するとのこと。

iOSとLinuxも近いうちにサポートされるだろう、Android は今現在未サポートとのこと。iOS / Linux とAndroid でニュアンスが違いますね。 中国本土でのAndroid の位置づけ、米国の姿勢を考えると致し方ないかと思います。

Does Cloud Desktop support instances with GPU capabilities? (GPU付きの仮想マシンは使えるの?)

Alibaba Cloud ECS のGPU付きのインスタンスは利用可能とのこと。ただし、NVIDIA のGRID ライセンスは別途購入してね、と。 この点はGRID ライセンスが仮想マシンの料金に含まれているAzure の方が優れています。 また、GRIDライセンスの試用版を利用する話は以下の記事でも紹介しています。

また、以下のトラブルシューティングに関するFAQも注目です。 中身の話というよりは使っているポート番号(1494)、”ICAWebWrapper.msi”,”Citrix.CQI.exe” という単語からこのAlibaba Cloud Desktop の画面転送プロトコルにはICA を利用している可能性が高まります。 

2. まとめ

今回のドキュメント読み込みでは以下の5点をとりあえず明らかにするつもりでした。

  1. コスト
  2. Windows クライアントOSの利用可否
  3. 画面転送のプロトコル
  4. 利用できるリージョン
  5. Why Alibaba Cloud Desktop

1点目のコストについて。 100台の仮想デスクトップごとに1つのClusters の購入が必要なことがわかりました。 また、Clusters は時間当たりの重量課金です。仮想デスクトップを100台利用時は1台あたり80円/月と安価なこともわかりました。  その他必要なコストは仮想マシンやネットワークトラフィックの料金のみです。

2点目のWindows クライアントOSの利用は不可なことがわかりました。 必要なコンポーネントが組み込み済のWindows Server 2016 /2019 のイメージが提供されます。またそのイメージをカスタマイズすることも可能です。

3点目の画面転送プロトコル、ドキュメントでは明言されていないのですがICA の可能性が高いです。 ただ、DaaS の管理基盤にCitrix を使っているかどうかはドキュメントからは全く読み取れません。 逆に提供機能や100VMごとに1 Clusters、対応クライアントはWindowsとmacOS のみなどICAは使うけどDaaSの管理基盤は独自実装の可能性が高いとみています。 80/月・台のコストからもCitrix を使っている可能性はまずないかなと。 

4点目のリージョン、中国本土8リージョン、中国外3リージョンで東京リージョンは現在未提供なこともわかりました。 ”他リージョンも間もなく提供よ”とあったので期待します。

最後のWhy Alibaba Cloud Desktop について。 ドキュメントを一通り読んだ限りは80/月・台のコストでしょうか。 あとはCENなどと連携した中国リージョンにある仮想デスクトップの日本からの利用(ないし逆パターン)の実現です。日本で契約できるクラウドサービスで中国のコンピュータリソースを利用出来、それがプライベートネットワークで日中間を接続し、DaaSとして提供できるとなると唯一無二の強みをもつソリューションと言えます。 (Tencent も日本展開始めているがTencentでDaaSを持っているかは調べていないので不明。。)

一通りドキュメントベースでの概要把握は出来ました。 次は実際にAlibaba Cloud Desktop の Clusters を作成し、インスタンスを展開し、接続するところまでやってみようと思います。

以上